青空いっぱい牧歌的なスタジアム前で、孤高のブラジル戦ニードチケット
試合前日リオのコパカバーナに宿泊も、ビーチリゾートらしきことは何ひとつできなかった。おまけに深夜コンフェデのチケットサイトで散々格闘の末、一睡もせずそのまま早朝5時に空港へ向かう。1時間45分の国内線フライトを経て、ついに6.15決戦の地、ブラジリアに降り立った。
突き抜ける青空とひたすら広いスタジアム周辺。朝11時、キックオフまであと5時間。この5時間に全てがかかっている。30時間と30万円かけて地球の裏側までやってきた。コンフェデ開幕戦のこのチケットは、今ない。
24年ぶりのブラジルでのフル代表のブラジルvs日本戦。この貴重な一戦を逃したら、今度一体いつ見られるか?ブラジル開催の南米選手権?日本が招待されるとは限らない。ブラジルと当たるとも限らない。来年のブラジルW杯は、1950年の「マラカナンの悲劇」以来64年ぶり。もう生きている間にはブラジルでW杯が開催されることはないだろう。
チケットに関しては、今までトゥールーズ(98年フランスW杯)、ソウル(02年日韓W杯)、ピョンヤン(2011年W杯アジア予選)、ロンドン(2012年五輪)、南京(2012年ACL)、いろいろ修羅場を経験した。くぐり抜けきれなかったこともあったけど、何とかならないはずはない。経験値だけが頼りの、根拠のない、ささやかな自信だけが自分を奮い立たせる。
そんないろいろな想いを詰め込んで、今まさに目の前にサッカー王国のスタジアムがそびえる。
「よし!やるか」
前夜書いたポルトガル語のニードチケットの紙をおそるおそる掲げる。
歩く歩く。ひたすら歩く。試合後には即帰国な為、6kgのバックパックはしょったまま。ピーカンでジリジリと暑い。ほどなくして、いかついめのブラジル人3人組から声がかかる。幸先イイ。
「チケットを探してるのか?」
「そうだけど、持ってるの?」
「あるよ」
「カテゴリーは?」
「1」
「いくら?」
「1,000レアル(約50,000円)」
「チケット見せて」
ポケットから折りたたんだチケットを取り出す。もうこの時点で買う気なし。粗雑に扱われたチケットなんて誰が買うかよ!
「高いよ」
「試合前になればもっと上がるよ」
それとなく値下げを振ってみたものの、ムリっぽい。まだ、時間はタップリある。
またまた、歩く歩く。チケットセンターにも行ってみる。見てびっくり。300人は並んでいるであろう長蛇の列。その列から声がかかる。カップルの女性から。
「チケットないの?サイトを当たってみれば?」
「いや、今ネットに接続できないんですよ」
iPhoneもノートPCもあるのに、SIMカードを手配できておらずネット環境が今の自分にない。
「なら、私たちがサイトから取りましょう」
親切にも持っているスマホで当たってくれるも、どうもうまくいかない。画面が日光で反射してよく見えない。サイトにも繋がりにくい。
「ありがとう。他を当たってみるよ」
再び、大海原へ。ひたすら歩く。スタジアムへ向かってくる人の流れを逆走しながら紙を掲げ続ける。
いない。ダフ屋が全くいないのだ。一体どうしちまったのか?スタジアムに歩いてくるサポーターは、楽しげな家族連れ、友達同士、カップル。余ってたらとっくに他に譲っているだろう。ブラジル人でも欲しい人はいくらでもいそうだ。こちらの掲げる紙は見てくれるものの、ツレナイ反応。反応してくれるだけましか。空港でもそうだったけど、写真撮ってくれとやたら言われる。嬉しいのだが、素直に喜べない。肝心な心配事を抱えているんだ。とてもいい雰囲気なのに心から楽しめないのが残念。
暑さ、寝不足、荷物の重さが体力を奪う。少し弱気になってきた。
すると、ひとりの女性から声がかかる。英語が通じないが、どうやらチケットを持っていそう。言葉が通じず、うまく交渉できないでいると、大会ボランティアの男性が英語でヘルプしてくれた。ダフ屋との仲介役って何か変だがw
「この女性、チケット買ってくれる人を探しているみたい。600(約3万円)でどう?いい席みたいよ」
「現物見せてよ」
「いまはないらしい。でも、600なら悪くないよ」
現物もない、カテゴリーも分からない、ただ、ボランティアの持っているスタジアムの見取り図でメインの真ん中のゲートを指し、ここから入場する、みたいなことを言ってくる。半信半疑だし、女性の目は眼光鋭く笑ってない。あやしいことこの上ない。
でもなー、このワンチャンスを逃したら次、いつ来るかわからない。98年のフランス・トゥールーズでのチケット騒動が脳裏をよぎる。あの時はグズグズとえり好みして、チャンスを逸した。時間は12時半をまわっている。かれこれ2時間近くも歩きまわり、やっと訪れた引き合いだ。イチかバチかいってみるか。
「じゃあ、買います」
値下げ交渉もあっさり却下。この試合に関しては完全に買い手が不利だ。
「あちらへ行きましょう」
チケットをこれから引き換えに行くのか?スタジアム方向へ歩き出す。しばらく行くと
「お金を出してください」
えっ?チケットは?いま無いのかよ。どういうことなんや?もうなるようになれ!金を先に渡す。非常に危険な取引だ。
女性は金を受け取ると、再び歩き出す。逃げようもんならとっちめてやる。
「ここで待っててください」
いやいやいや、一緒に行くで。逃げる気か?ピタリとマンマークしながら、ついて行く。
すると、スーツ姿のいかにもダフ屋そうな男に近づいていく。女性はその男にお金を渡している。男は懐からうやうやしくチケット3枚をフトコロから取り出して女性に渡す。
ようやく事情が理解できた。女性は連れの男性と2枚、このダフ屋から買おうとしたが、ダフ屋は連番3枚しか売ってくれず、やむなくあと1枚買ってくれそうな人を探していたってわけ。その1枚を俺が買ったってわけ。
席はゴール裏だった。最初言ってたのとずいぶん違うけど、まー、しゃーない。チケットを獲得できた、これでスタジアムに入れる、との安堵感が大きかった。よしとしなきゃ。
暑さの中、背筋に冷やりとしたものが走った攻防劇。のどかなピクニック風景のようなスタジアム周辺とは対照的に、ダフ屋もニードチケットしてる人も全くいない状態の、孤立無援の厳しい戦い。青空の下、ひとりで必死こいてる自分が滑稽にすら思えた。
時間は13時をまわっている。16時のキックオフまであと3時間。スッテンテンになった財布の中身を補充しに行こう。急に腹が減ってきた。飯を食いに行こう。
了
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