はかなくも美しい輝きを逃さない
今日は母の日。酸素ボンベのチューブをパタッパタッと引きずる音がすると、母が廊下を歩いているのがわかる。「月下美人、咲いたわよ」俺の部屋に来て、そう言ってきた。
何か他のことをやっていて忙しかったのか?仕事でイライラしていたのか?花に興味のない俺は「うん」とそっけない返事だけして、部屋から出なかった。母が亡くなってしばらくした後、「月下美人」をよくよく調べてみたら、珍しい咲き方をする品種だとはじめて知った。
夜に花を咲かせ、一晩でしぼんでしまう。香りもいいらしい。ガンが進行した母がどんな思いでこの花が咲くのを楽しみにしていたのかと思うと、今でもいたたまれなくなる。「どれどれ、どんな花だろう」「へぇ~すごいね」と一緒に見て共感してあげたかった。12年ほど前のちょっとした振る舞いが、一生の後悔になってしまった。これっぽっちの親孝行すらできなかった自分が恨めしい。
サッカー。美しいゴールや名シーンは一瞬だけれども、いつまでもファンの心に刻み込まれる。そんな一瞬を求めて、せっせとスタジアムに足を運ぶ。ファンの幸せの度合いって、何度も何度も反すうできる名場面をどれだけ頭の中にストックできているかにもよるのではないだろうか?映画「エリックを探して」の主人公のように。
いろいろな言い訳をこしらえた挙句、「あの時、スタジアムに行けばよかった」なんて後悔したくない。
美しい瞬間をもう絶対逃さない。
今日は母の日。照れくさくても、何か一言でもいいから日頃の感謝を伝えましょう。いつか「月下美人」は見てみたい。
了
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